SMという言葉の誕生

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概説

「マルキ・ド・サド」「ザッヘル=マゾッホ」に由来して「サディズム(Sadism)」「マゾヒズム(Masochism)」という言葉を創案したのはドイツの精神医学者クラフト=エビングで、1886年(明治19年)頃のことである。その後まもなくクラフト=エビングの学説は日本にも紹介されたが、本格的に「サド・マゾ」行為が注目されるのが、1913年(大正2年)にクラフト=エビングの『変態性慾心理』が翻訳出版された時である。その後、大正から昭和の初期にかけて、いわゆる「エログロ」文化が華やいだが、「変態」「異常」「アブ」などの表現が用いられたものの、「SM」という言葉はこの時点ではまだ誕生していない。第二次世界大戦によるエロ文化の空白期間を挟み、戦後まもなくエロ文化が再興するが、ここでも、まだしばらく「SM」という記号は誕生しない。奇譚クラブなどの元祖SM雑誌も、初期の段階では「変態」「アブノーマル」「責め」「縛り」などでSM行為を表現している。1950年代に入るとようやく「S」「M」といった記号が、小説のタイトルや新聞広告に現れ出すが、面白いことに現在のような「SM」のみならず、「M・S」「MS」といった表現の方がむしろ多かったようである。雑誌の表紙やタイトルに「SM」が現れるのはさらに遅く、1965年(昭和40年)、裏窓の後継誌サスペンスマガジンに、おそるおそる「SM」を暗示するデザインが用いられたのが最初である。その後、1968年(昭和43年) 創刊のサスペンス&ミステリーマガジンにはより直裁的なデザインが用いられ、1970年(昭和45年)、ようやく問題SM小説SMセレクトと、堂々と雑誌のタイトルに「SM」が用いられるようになった。興味深いことに映画のタイトルには「SM」という言葉は(近年は別として)ほとんど用いられていない。

歴史

サスペンスマガジン 1965年(昭和40年)創刊号
サスペンス&ミステリーマガジン

1740年(江戸時代)、マルキ・ド・サド、パリに誕生。1785年、獄中で『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』を発表。1814年没。

1836年(江戸時代)、レーオポルト・フォン・ザッハー=マゾッホ、オーストラリアに誕生。1871年に小説『毛皮を着たヴィーナス』を発表。1895年没。

1886年(明治19年)、ドイツの精神医学者クラフト=エビング(1840-1902)が『性的精神病理』の中で「サディズム」「マゾヒズム」を創案。

1894年(明治27年)、クラフト=エビングの『色情狂編』(日本法医学会/春陽堂)が発禁処分。

1913年(大正2年)、『性的精神病理』が『変態性慾心理』として出版されブームとなる[注 1]

1952年(昭和27年)、奇譚クラブ8月号に岡田咲『責めの小説 MとS』

1953年(昭和28年)夏、山岸康二が毎夕新聞に『MS倶楽部会員モデル募集 芸苑社』の2行広告を出す[注 2]

1953年(昭和28年)、奇譚クラブ12月号に嶽収一『MSバンド』

1954年(昭和29年)、奇譚クラブ5月号に中谷冷一『MS・プレイ』

1961年(昭和36年)、裏窓8月号に『師弟関係のSM』、風俗奇譚9月号に一ノ瀬悦子『狂熱のSM交響楽』、10月号に谷貫太『欧米MSの家めぐり』

1964年(昭和39年)、奇譚クラブ辻村隆の『SMカメラ・ハント』が連載開始。

1965年(昭和40年)2月、裏窓の改題誌として創刊されたサスペンスマガジン(久保書店)の表紙デザインが「SM」を暗示。

1968年(昭和43年)9月、サスペンス&ミステリーマガジン(コバルト社)創刊。表紙にはタイトルの略号として「SM」が大きくデザインされている。

1969年(昭和44年)10月、SMマガジン10月号臨時増刊号(コバルト社)の創刊号発行[注 3]

1970年(昭和45年)2月、SMマガジン2月号臨時増刊号(コバルト社)の第2号発行。

1970年(昭和45年)5月、サスペンス&ミステリーマガジンの姉妹紙としてSMマガジン臨時増刊号問題SM小説(コバルト社)と改題して創刊。11月には『実話雑誌』11月増刊号としてSMセレクト(東京三世社)が創刊。

1970年(昭和45年)5月、夫婦生活(手帖社)特別増刊『SM立体カラー医学カード』監修:木村康雄

トピックス

  • 「SM」にフェチの「F」と加えた「SMF」も、初期には一部で使われていた。

引用文献

注釈

  1. 「変態」の俗語が生まれたのはこの頃
  2. 山岸康二によると「実際に載ってみると、MSでは何となく文字のすわりが悪いので、1ケ月くらい経ってからSMに変えた。」とある。
  3. 本来なら、「サスペンス&ミステリーマガジン10月号臨時増刊号」となるべきところが、略号の「SMマガジン10月号臨時増刊号」として名前がつけられている。

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