乗馬
概要
SMにおける乗馬或いはそれに関連する事柄をモチーフとしたものとして、以下のものが挙げられる。
乗馬鞭
SMと言えば鞭と蝋燭と言われるくらい鞭は主役的存在だが、SM用として市販されている鞭の殆どはSM用であって乗馬用とは形や素材が異なる。
乗馬鞭には乗り手が使う短鞭と長鞭の他に調教用の追い鞭などが主に知られているが、SMグッズショップでは主に短鞭を模した柔らかいものがSM用の乗馬鞭として市販されている。短鞭は扱い易く軽く当てるのみであれば初心者向きでもある。
1.短鞭
短鞭は、ジャンプ競技や野外騎乗などで利用される最も普及した乗馬鞭。乗り手の片腕程の長さで海釣り用の太い釣竿程度に撓る棒状のものが一般的だが、上級者は馬や乗り手に合わせてカスタマイズ或いはオーダーメイドされた物を愛用する。
SMで乗馬用の短鞭を利用するメリットは、硬くて短い為に狙った場所に難なく当てる事が出来る為、僅かな練習で思い通りの痛みを思い通りの部位に局所的かつ的確に与える事が可能で、また、乗馬や競馬で行われている見せ鞭としての効果や、指揮棒の様にして命令動作に利用したり、軽く肌を撫でる様にして愛撫などにも利用出来る。実用を考慮して叩く道具として製造されている為に耐久性が有り、不慮の事故で意図しない切り傷を作ってしまう様な事故も起き難い。
2.長鞭
長鞭は、ドレッサージュ(馬場馬術)で利用される人の背丈程度の長さで釣竿程度の硬さの棒状の鞭で、先端部分に数センチ程の皮や紐が取り付けられている物。通常は右手の親指側に鞭の後端を持ち手首のスナップを使って軽く馬の臀部に触れる程度に当てて使うが、人肌に使うと軽い操作で局所的に鋭い痛みを与える事が可能である。SMで利用するには前もってある程度の練習が必要だが、素材が硬い為に大きく的を外す様な事はなくSM用として売られている一本鞭よりも扱い易い。難点は一本鞭やバラ鞭などのSM用の鞭よりも地味で音も静かでありSMショーの演出や精神的な威圧には向かない。
3.追い鞭
調教の過程で利用される鞭、長鞭より更に長い鞭の先端に、それよりも長いロープが付けられており、調教師が馬から数メートル離れた位置から馬を追い立てる為に利用する。馬体に直接当てる事はあまり無く、鞭の音を使った威嚇によってする。SMで利用するには長過ぎて不向きだが、SMショーの演出としては効果的かもしれない。但し先端が目に入れば失明の危険が非常に高く、かつ相当の錬度が必要な為あまり御勧めは出来ない。乗馬の調教においても目に入らない様に先端部分が地を這う様にして使われる事が多い。
木馬
元は幼児向けの本格的な乗馬練習用具であったり或いは単に玩具であったが、乗馬文化の衰退と共に一般には殆ど目にしなくなっていった。
一方、大人用の木馬としては馬具の試乗用木馬が馬具店に設置されている事があり、現代でも設置されている馬具店が存在する。その利用方法は木馬に鞍などの馬具を装着し、そこに跨って騎乗感を試したり、デザインを確認する為の物である。また、類似のものとして鞍の保管用に三角木馬と似た形の物が使われている事もあるが、試乗用ではない為に人の体重を支えるには強度が不足している物が多い。
SMにおける代表的な木馬は三角木馬であるが、上記の馬具試乗用木馬は馬の背骨の突起が再現されている物が多く三角木馬より丸みを帯びてはいるものの鞍などの馬具を装着せずに跨った場合に同様の効果を与える事が可能である。
乗馬服崇拝
乗馬服姿に対するフェティシズムの一種。
乗馬服といっても多種多様であるが、馬術競技毎に厳格なドレスコードが有る。
ドレッサージュの公式な場での乗馬服は、基本的には燕尾服にシルクハットと皮手袋であるが、パンツ(ズボン)は動き易さを重視したスパッツに近い足の形にぴったりフィットした物で内股に皮製のパットがあてられ、履物は長靴である。これ以外に競技会等において許される服装は自国の正式な軍服のみであり、当然ながら軍服は軍人にのみ許されている。つまり、元々は男性向けの正装であり厳格なドレスコードがある。これを基本形として小規模な競技会向けには動き易くした略式の燕尾や丈の短いシルクハットを男女ともに着ている。普段の練習においては燕尾やシルクハットは着用しない事が多いが、その他の服装は基本的に同一の物を着用する。
ジャンプの公式な場での乗馬服はドレッサージュに準ずるが燕尾ではなくジャケット、シルクハットではなく乗馬用のヘルメットが使われている。普段の練習においてはジャケット及びシャツ以外は基本的に同じ服装である。
ウエスタン競技の公式な場での乗馬服は、ウエスタンブーツに大きな回転式の拍車、ジーンズ、チャップス、襟付きシャツ、テンガロンハットが基本で、日本国内では西部劇などで目にする姿であるが、国内でも馬術競技会では実物を目にする事が出来る。競技のルールとしてこれらの着衣が義務付けられており、競技中にテンガロンハットを落とすと減点などの厳しい採点ルールが有る。ウエスタン競技の特徴の一つとして牧畜作業を基本としている為に手を封じてしまう鞭は持たないが、牛追い系の競技においては捕縛用のロープを手にす事がある。ウエスタン乗馬服姿の女性を見る場合にフェチの対象と成り易いのはチャップスの割れ目からのぞくYゾーンと尻であろう。それを強調するかの様にハイウエストでポケットが無くヒップラインを強調した女性用ジーンズがアメリカ国内の乗馬洋品店で売られている。
SMにおける乗馬服姿に対するフェティシズムは、先述の通り元々男性向けの服装スタイルである事から男性的な強さの象徴でもあり、女王様を崇めるM男の構図などがそのまま当てはまるが、公衆の面前で拍車を装着し鞭を手にしていたとしても戦前は普通の見慣れた光景[注 1]であったし、戦後においても馬術関連施設とその周辺地域[注 2]であればパブリックスペースにおいて違和感無く存在出来る点でボンテージ(bondage)姿の女王様とは大きく異なる。
乗馬をあまり見掛けなくなった現代においても、乗馬クラブや馬術競技会会場及び会場周辺レストラン等では普通に見掛ける光景であり、その姿のまま長靴で踏みつけ、拍車を突き刺し、鞭を当てるといったSM行為が即時実行可能であり、そこから想像を膨らませる事でフェティシズムに文字通り拍車を掛けるであろう事が容易に想像出来る。
烙印・焼印
馬の所有権の証としての烙印は、ロゴなどの広く知れ渡った印が使われ、馬が盗難に遭ってもすぐに所有者が判別出来る利点が有る。SMでも同様にMに烙印を押す事によって所有権を主張し、他の者に対して暗黙のうちに主従関係を主張し、或いは所有物である事を本人に常に自覚させる効果などが有る。
本来、人に対する烙印・焼印は罪人に対する刑罰であるが、SMにおける烙印・焼印は上記の通り家畜に対するものと同様に所有権の主張が目的である為、罪人に対する刑罰とは意味合いが異なる。(但し刑罰の意味で凌辱的な烙印を押す行為は罪人のそれと等価である。)
近年では乗馬に対する烙印は凍結烙印が一般的であり、馬体表面に軽い凍傷を起こさせ印を付ける手法であり、旧来の焼印と比較して安全面に優れ馬体への影響も少ない。所有者・生年月日・シリアルナンバー等が刻印され、固体識別や血統管理に有効である。
ポニーガール
M女を馬(乗馬ではなく主に馬車馬)に模したロールプレイとして知られている。
ポニーとは比較的小型の馬種[注 3]の事で、成人男性が騎乗した場合は不恰好に映る為、子供や女性の乗馬として或いは一頭立ての小型馬車用の馬車馬として使役されている。M女を馬に見立ててロールプレイをした場合にも、まさにこれと同様に騎乗しては不恰好に映り、とても乗用には耐えられないが、小型軽量馬車の馬車馬としてなら、ちょうど人力車の様に軽快に使役させる事も比較的容易であり、従って馬車馬としての美しい歩様に向けての調教や、馬車馬としての馬具の装着、実際に馬車を引かせる行為などがポニープレイの内容である。本格的なポニープレイには専用のオーダーメイド馬具と、気品の有る小型の乗用馬車が必要であり経済的なハードルが高い[注 4]が、海外では実践されている方々も見受けられる。牽引するものが馬車ではなく荷車などの場合に馬は馬車馬ではなく駄馬としての扱いに成る等、馬車の装備はそのまま馬の品格とも結び付き、乗り手のステータスを表す。
別の側面として、馬は、その体格が大きい品種ほど性格がおっとりしているが、逆に小型の品種であるポニーは女性のヒステリー同様に短気を起こす性格の馬が多い。ポニープレイにおいても、じゃじゃ馬ぶりを見せるM女を調教し馴致してゆく過程を楽しむといった意味が込められているのかもしれない。
仮に、ポニーガールとしての競技会が有るとすれば、美しい姿勢、美しい歩様、命令への完全な服従などが採点項目として挙げられ、命令拒否は減点という事に成るであろう。従って調教の目標もおのずと美しい姿勢を長時間キープする事や、規則正しく高くて抑揚のある優雅な足様で歩き又は走る事、手綱操作に対しては即時かつ従順に応答させるといった事に成る。
調教と馴致
本来、調教とは痛めつける事が目的ではなく、人が意図した作業を馬などの動物にさせる為のトレーニングを重ねる行為を指す。そして馴致とは意図した作業や場の雰囲気などに馴染み抵抗無く受け入れ易い精神状態に仕込んでゆく過程をあらわしている。
乗馬における調教と馴致は、数年~10年程度掛けて特定の競技や使役に適した状態に向けて完成させてゆく長期的で段階的かつ計画的な物である。
SMにおける調教は時として漠然としていて単にSMプレイの事を指すと思われがちだが、本来の意味から云えばS又はSから依頼を受けた調教師がMに対して何らかの目標を設定し、その目標を達成出来る様にトレーニングを積み重ねる事を指すべきで、その過程で「命令」に対して「反抗」した場合にのみ鞭などで罰を与え、逆に「従順」であった場合は愛撫などで褒めてあげる事によって、いわゆる飴と鞭によってトレーニングを積み重ねて目標に近付けてゆく行為を指すべきである。但し、Mにとっては度重なる鞭の打擲によって鞭が飴に成り得る所にSMの醍醐味とでもいうものが潜んでいる様に思う。例えばMに裸で正座させ土下座させ挨拶口上を述べさせる事を調教する場合、当初は一連の流れを大まかに教え込み、概ね流れを覚えた時点で愛撫などして褒めてから終了し成功体験を植え付けてゆく。その後は段階的にハードルを高めて行き、脱いだ服の整理整頓や正座の作法、土下座の角度や頭を下げている時間、挨拶口上の感情の込め方や一字一句に至るまで厳密に定め、少しでも間違えた場合は即時打擲し、又、教えた通りに出来た時は直ちに愛撫して褒めてあげるといった行為が調教と言える。何の目標も無く、命令に対する反抗が有った訳でも無く、ただただ鞭打つ様な行為は単なるSMプレイ或いは虐待であって調教とは言い難い。調教のハードルは進行状況やMの錬度によって設定されるべきで、突然難易度の高い事を強要するのはかえって全体の調教を崩し錬度が後退する危険があり目標達成の為には避けなければいけない。最終的にSがMの所作を見て感動する所に到達すれば調教は成功と言え、褒美として鞭による打擲を(口には出さないが)体が欲する様に成れば、それ以上何も言う事は無いかもしれない。
SMにおける馴致は、例えばアナル開発の初期段階で軽くアナルに触れ、ローションを塗り込み、指先を僅かに挿入するなどして徐々にアナル行為に対する抵抗感を取り除き、小型で細いアナルプラグに慣れさせる所から始め、長期間掛けて目的の太さまで徐々に拡張してゆくといった行為がまさに馴致である。その際にMが抵抗感や恐怖感を感じる事無く、むしろ積極的に受け入れ自らプラグ挿入を欲する様に成れば馴致の成功と言える。逆にアナルに対する抵抗感や恐怖心を植え付けてしまった場合は馴致の失敗であり、取り戻す事は困難である。
メディア
乗馬関連記事
- 森本愛造『乗馬靴と長靴と鞭』奇譚クラブ1953年(昭和28年)4月号, p30。
- 池田繼男『乗馬靴への執着』奇譚クラブ1954年(昭和29年)3月号, p49。
- 森本愛造『乗馬靴と長靴と鞭』再掲、別冊奇譚クラブ1960年(昭和35年)10月 秋冷新星号 p96。
乗馬関連写真
乗馬関連絵画
- 『豪華なよそほい』奇譚クラブ1954年(昭和29年)7月号口絵
- 滝れい子『乗馬靴と長靴と鞭』別冊奇譚クラブ1960年(昭和35年)10月 秋冷新星号 p97。
- 『乗馬スタイルのドミナ』奇譚クラブ1960年11月号口絵(Bizarreより転載)
- 春川ナミオ『乗馬ゴッコ』奇譚クラブ1971年(昭和46年)7月号, p186
ポニーガール
- 『美しき馬の調教1』奇譚クラブ1954年2月号口絵
- 『美しき馬の調教2』奇譚クラブ1954年2月号口絵
- 『巧みな調教師1』奇譚クラブ1954年3月号口絵
- 『巧みな調教師2』奇譚クラブ1954年3月号口絵
- 『美しき小馬のセリ賣り1』奇譚クラブ1954年(昭和29年)4月号口絵
- 『美しき小馬のセリ賣り2』奇譚クラブ1954年(昭和29年)4月号口絵
- 『車を輓く小馬1』奇譚クラブ1954年(昭和29年)5月号口絵
- 『車を輓く小馬2』奇譚クラブ1954年(昭和29年)5月号口絵
- 『PONY』奇譚クラブ1954年(昭和29年)6月号口絵
- 『くつわをかまされる恐怖』奇譚クラブ1954年(昭和29年)6月号口絵
- 四馬孝『厩』奇譚クラブ1960年(昭和35年)10月号口絵
- S&Mスナイパーに何点か掲載が有るハズ・・・
引用文献
注釈
- ↑ 但し男性はともかくとして戦前は女性が大股を開いて乗り物に跨る事は破廉恥とされていた時代でもあり、女性が馬に跨る事自体が少なかったと思われる。アマゾンスタイルという両足を揃えて横乗りする騎乗スタイルが女性向けとされ正式なドレスコードはロングドレスであり、日本ではあまり普及しなかった。但し、現在でもアマゾンスタイルは極少数の愛好家達によって実践されている。
- ↑ 鞭を携帯せず、かつ、小型の棒拍程度であれば日本中何処へ行っても洒落た格好で通せるであろう。
- ↑ 日本ではポニーの事を「小馬」と書いて「仔馬」(馬の子供)と区別しているが、一般にはあまり知られておらず辞書などでも「小馬」と「仔馬」を同じものとして掲載しているものが多い。品種としての成体(つまり大人に成った状態)の体高(人が跨る位置)の高さが147cm(4.9feetつまり5feetに満たないもの)以下の品種の総称がポニーである。代表的な品種にシェトランドポニー(100cm程度)やハフリンガー(130cm程度)などが有る。
- ↑ 有名な馬具店などで馬具・馬車ともオーダーメイドするなどして真面目に作ると新車が数台購入出来る程度の費用が掛かる。
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つながり
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